2012/01/20

琵琶湖一周 Tour du Lac Biwa



雪の降り続く日本海側を脱出して、ロードサイクリングを楽しもうと琵琶湖一周を企てたのは富山の師。
お供いたしますと、二つ返事で昨年自転車を始めたばかりの学友を伴って富山へ、そして滋賀へ。

いまでは彦根という地名以上に有名になってしまったひこにゃん。
日本最大の湖一周の始まりはこのひこにゃんの地より。
ひこにゃん城を横目に、雰囲気のある小城下町を抜ければ琵琶湖に行き当たる。
しかし、今日は観光客がいない。
それもそのはず、今日は金曜日。むしろ通勤のクルマがガオンガオンと嘶いておる。
さらに、空からは雨。
それもなかなかの降りである。
雪を逃れて至った滋賀の地で雨に祟られるとは、日本海側の人間が3人も集まると悪天の吸引力もまた、なかなかのものである。
しかし気温は思ったより下がらず、体さえ濡れなければまぁ走れなくはない。
8時のスタート時点の気温は5℃。

Tour de Lac Biwa

湖沿いのサイクリングロードは走りやすいが、タイル敷きになっているところもあり、濡れているとやや気を遣う。
上旬に関西に行って以来のサイクリングなので、無理せず回しながら。
こうも路面が濡れていると、前走者の跳ね上げが顔にかかって「ぷぇっ」となってしまうので、集団走行らしい走行は今日はなさそうだ。

それにしても、琵琶湖である。
人生のすべてが釣りであった思春期には1度しか釣り竿持参で訪れた事の無いこの湖に、
自転車に乗るようになってからはもう5度ほど訪れているというのはなんだか皮肉なものだ。
次回は釣り竿を持ってサイクリングできたらよいナ。
直近に琵琶湖で釣りをしたのは、フランスに行く前、まだ啓兄がパパになるより、夫になるより前だったのだから大分昔のことだ。
その時はPOP-Xでなかなかよい釣りができたのだった。
なんだかんだシンプルにできるバスフィッシングは好きだ。
なんてことを思っていたら、数日後に釣りをする夢を見て、夢の中にも関わらず、あのアドレナリンが出まくる体験をしたのだった。

Tour de Lac Biwa

さて。
寒い。
フェンダーを忘れてきたのは大きなミスであった。
さらにクラシックソフトシェルを着てくればよかったものを、ウインドジャケットだけしか持ってこなかった(晴れると思っていた)ために、
30kmを走ったところでじわじわとお尻から毛細管現象で濡れ始め、平地をゆるやかに走っているものだから体温が上がらない。
この日のライドで一番辛かったのはこの最初の40km。
道の駅、塩津海道あぢかまの里 に逃れて、温かなおそばに助けられる。

Tour de Lac Biwa

ここの道の駅はかなり興味深く、売っているものに文字通り垂涎。
川エビの佃煮とか、ホンモロコの佃煮とか、養殖だけど鮎だとか、もちろん鮒ずしも売っている。
鮒ずしは食べた事がないけれど、やはりちゃんとニゴロブナをつかっているのが重要らしく、
その先行く先でちらほらと鮒ずし屋を見かけたが、どれもニゴロブナであることを明示していた。
ニゴロブナであることももちろん大切な事なのだけれど、代用されるゲンゴロウブナでさえ、本来は琵琶湖の固有種であるのだから恐れ入る。
琵琶湖一周は、文字通り琵琶湖の大きさを感じるのにいい機会だったのかもしれない。
ぼくが小学生の自分に愛読していた山渓カラー名鑑『日本の淡水魚』には、琵琶湖畔には産卵期を迎えたアブラボテが溢れんばかりに乱舞して、地元の子どもたちも釣っても捕ってもありがたくなく、「なんだボテか」と言うくらいのもの、と言う記述があって読むたびにため息をついたものだった。
(もしかするとカネヒラの話と混同しているかもしれず、さらにボテの下りは九州の話だったかもしれない…記憶とはいつでも曖昧なもの)
この『日本の淡水魚』は、父から借り受けていたものであって、当時でさえ、読みながらひと時代前のことが書かれていると感じたものだったが、
21世紀も10年を過ぎた今では、また違った読み方になりそうだ…。
いま、はたして「なんだボテか」と言うほどアブラボテでいっぱいの水辺はあるのだろうか。
センチになる必要はないけれど、生物で満ち満ちていた時の琵琶湖を体験できたらどんなに幸せかという夢想を抱くことは少なくない。

時がやや上って、高校生の時分に初めて琵琶湖に釣りをしに赴いたが、それでもその生物の多様性と密度に驚かされたのだから、往時を思わずにはいられない。
初めて野生のニホンイシガメを見たのは、琵琶湖に注ぐ河川のほとりであったように記憶している。

あぁ、自転車で琵琶湖一周の話のはずが、ずいぶんと脱線をしてしまった。
日本産淡水魚が好きなら、琵琶湖はやっぱり欠かせないところだから仕方ない。

そういえば、教育学部の授業で地域に根ざした総合学習の指導案を書く、というものがあり、
埼玉出身のぼくは迷いなく琵琶湖の水棲生物から人為・環境問題を考える、という指導案を書いてきたら、
それが思いのほか好評で大教室で発表までさせられる羽目になったおかげで、同級生は僕をてっきり滋賀出身だと思っている。
今でも、将来の進路の話が出るたびに、実家に帰るの?滋賀だっけ?と言われるくらい。
ま、琵琶湖と滋賀が好きなので、ちょっと嬉しいのだけれど。

Tour de Lac Biwa

雨は多少弱まり、琵琶湖北部をひた走る。
釣り雑誌が人生のバイブルだった頃によく読んだのは、北部は水の透明度が高いことと、急深であること。
果たしてその通りであった。周りの緑も随分と濃く、人間の気配も希薄で、どことなくドイツの山奥の湖畔沿いを彷彿とさせる。
行ったこと無いけど。
崖から滑落したのか、車に撥ね飛ばされたのか子鹿が道路脇に伏していたが、猛禽か烏についばまれところどころに白骨をむき出しにしている様相は凄惨である。

コース自体は、車通りの多い、少ないが交互にやってくるが、登りはなく、割に単調である。
それだけに湖面の変化や岸辺の地形などを見ながら走ることになる。
平日ということもあってか、釣り人の姿はほとんどない。
物心ついたころにバブルがはじけてしまった僕にとって、唯一あの釣りブームの時期の有名湖の水辺に、「バブル」という言葉の一端を感じることができたのだと思う。
その後の、正常化した静かな水辺を見るにつけ、逆に静かすぎて不安を覚えてしまうほど。
うたかたの夢、それは輸入文化であるだけに定着を見るのが難しかった。
自転車も人ごとではない。

Tour de Lac Biwa

シクロクロスでお馴染みマキノを抜け(しかしいまだ一度も走ったことがない!)、
湖西線とスプリント勝負をしながら琵琶湖を南下していく。
近江舞子、釣り雑誌に出ていたその地名の読みがなを知ると、なんだか美人な気がしてきて今も好きな音の響きである。
中学生の想像(妄想)力のたくましさと言ったら、すごい。
今回は悪天と言うこともあり、ショートコースを採用。琵琶湖大橋を渡る。
なので厳密には琵琶湖一周と言うことにはならないかもしれない。が細かいことはいいでしょう。
大橋では富山の兄と大人げない掛け合いなどをしていたら、風景を見るのをすっかり忘れてしまった。
すでに時間の止まった観覧車のもの言わぬ沈黙の痛ましさだけは記憶に残っているが。

Tour de Lac Biwa

Tour de Lac Biwa

琵琶湖大橋を渡りきるとひこにゃんまでは40kmほど。
このあたりで初の100km超えライドの新潟の弥彦丸の息が切れてきた。
ここからの40kmは、彼にとって地獄になるだろう。。。まぁ平地なので走れないことはあるまい。
限界だと思っても案外と足が回り続け、からがら目的地までたどり着ける自転車の魅力を、彼は後に感じることになるだろう。
…と思っていたけれど、後で見るに、喜びよりも悔しさの方が勝っていたようだ。
この悔しさをローラーにぶつけることができれば、また一歩サイクリングの世界に踏み入れることになる。
冬はローラーしかできないのが新潟の辛いところではあるが。

Tour de Lac Biwa

道ばたのたこ焼き屋で休憩。
これがまた絶品で、いい補給になった。外カリッ、中ジュワの正統派。
さすが関西、たこ焼きのレベルは高い。
リフレッシュしてひこにゃんを目指す。
途中、あのマイアミビーチを横目に。
過去2回走ったけれど、まだ一度も満足できる走りができていない。来期は…!また戻ってくるぜ。

Tour de Lac Biwa

Tour de Lac Biwa

暗くなり始める16時過ぎ、ひこにゃんにたどり着く。
スタバでコーヒー。
160kmは、普段走らない距離なのでさすがに疲労感を覚えるが、それもまた心地よい。
またひとつ、琵琶湖との思い出が増えた。

Tour de Lac Biwa

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