その魚の名はウケクチウグイ。
新種記載は20世紀の最後の年というニューカマー。
絶対個体数が少ないこと、そして東北の限られた水系にのみ生息することが、
ながらく学術記載の網の目をかいくぐってきた理由だという。
人が「魚」と呼ばれた時にイメージする種は、その人の立地環境に依存するのだと何かで読んだ。
つまり、小さい頃に池が遊び場だった人は、フナが「魚」であり、
海沿いに住んでいればアジが「魚」であり、
あるいは水遊びとは縁のない都会っ子であれば、スーパーの鯛が「魚」なのだという。
僕の「魚」は、ウグイだった。
幼い頃によく釣りをしたその川で一番釣れるのがウグイとオイカワだったから。
その川も10年ほど前にはカワムツしか釣れなくなり、
最近では都心のナンバーをつけた車が我が物顔で散らかすだけの場所になってしまった。
そんなウグイの中で、最大80cmにもなる種がいるというのは魚類図鑑を読みふけっていた小学6年生には
驚き以外の何物でもなかった。
そんなわけで心のどこかに泳ぎ続けていたウケクチウグイを釣りに行く機会に今回、恵まれたのである。
赴いた福島県のとある河川では、ウグイが天然記念物に指定されている。
これはなんでも弘法大師が放った木片がウグイになったという伝説に起因しているとか。
モザイクのウグイレリーフ。
こういうささやかな生き物を表現しているものが僕は好きだ。
こういうウグイ伝説があるところに、化け物級の新種ウグイがいるというのは、
やはり偶然ではないと思う。
ラチメリアの例を出すまでもなく、学者よりも地元住民の暮らしの中に生物への深い理解と共存がある。
そして肝心の釣りは…。
堰のあるところ、スプーンに飛びついたのは。
ウグイ。ケータイフォトで分りにくいかもしれないけれど、これはノーマルウグイ。
それでも渋い釣りが続いていたから嬉しいもの。
しばらく粘り、やはり同じ場所でバイト!
手応えがまるで違う。
魚が翻る。水中で色濃く見える体側の黒いライン。
どこか大陸の大型コイ科魚類を思わせるその表情は、果たして受け口!
ウケクチとしてはまだまだ小物ということだが、夢の魚をまた一匹獲った。
東北の豊穣に感謝しつつ、内水面の釣りがますます好きになったのだった。
fin
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